1. 高額特定資産を取得した場合の特例って?

2016年度税制改正により、「高額特定資産」を取得した場合、取得日の属する年度初日から3年間、事業者免税点制度及び簡易課税制度の適用を受けることができなくなりました。

具体的には、以下の変更ができなくなります。

課税事業者から、免税事業者への変更ができない
原則課税から、簡易課税への変更ができない

 

2. 高額特定資産って?

高額特定資産とは、①1単位1,000万円以上(税抜)の棚卸資産or②調整対象固定資産(100万以上の固定資産)をさします。

「棚卸資産」が含まれているので、実務的な影響も大きいと思います。

 

3. 高額特定資産と調整対象固定資産の違い

高額特定資産は、「棚卸資産」も「固定資産」も含む概念で、金額は1単位1,000万円(税抜)以上

一方、調整対象固定資産は、棚卸資産は含まれず、「固定資産のみ」で、金額は1単位100万円以上(税抜)となります。

 
(具体例)

高額固定資産 調整対象固定資産
1,500万円の販売用不動産(棚卸資産) ×
1,500万円の賃貸用不動産(固定資産)
500万円の販売用不動産(棚卸資産) × ×
500万円賃貸用不動産(固定資産) ×

 

4. イメージ

例えば、2021年に高額特定資産を取得した場合は、以下となります。

年度 改正前 改正後
2020年 原則課税
2021年
(高額特定資産取得)
原則課税
2022年 免税・簡易選択適用可能 原則課税
2023年 免税・簡易選択適用可能 原則課税

高額特定資産取得時に「免税事業者」である場合や、「簡易課税制度」を選択している場合には適用されません。

● 既に簡易課税制度を選択している会社が、基準年度売上が5,000万円を超えたため、結果的に原則課税となる年度に「高額特定資産」を取得した場合にも適用されません。

 

5. 消費税へのインパクト

(1) 例題

● 原則課税の会社
● 2020年 課税売上・課税仕入ともに2,000万円。
● 2021年に、棚卸資産(高額特定資産)2,000万円取得。
● 2022年に、上記棚卸資産を3,000万円で売却。
● 上記以外の取引はなし
● 2021年中に簡易課税選択適用届を提出し、2022年から簡易課税を適用(みなし仕入率80%の業種)

 

時期 売上(税抜) 仕入(税抜) 消費税
2020年 2,000万円 2,000万円 0円
2021年(取得) 0円 2,000万円 200万円
2022年(売却) 3,000万円 0円 300万円

 

改正前(簡易課税適用可) 改正後(簡易課税適用不可)
2020年 消費税ゼロ(原則課税) 同左(原則課税)
2021年 200万円還付(原則課税)
(2,000万円×10%)
同左(原則課税)
2022年 60万円納付(簡易課税)
3,000万円×(1-80%)×10%
(みなし仕入率控除)
300万円納付(原則課税強制)
(3,000万×10%)
摘要 (※1) (※2)

(※1)2020年の課税売上は2,000万円のため、改正前は、2022年は「簡易課税」の選択が可能でした。
改正前であれば、2022年の納付額は、みなし仕入税率の控除により、60万円の納付となります。

(※2)2021年に「高額固定資産」を取得しているため、改正後は、3年間「簡易課税」の選択ができません。
改正後は、2022年は「原則課税」の適用が強制され、納付額は300万円となります。

 

(ご参考)

仮に、2020年の課税売上高が1,000万円未満の場合、改正前であれば、2022年は「免税事業者」となりますが、改正後は「免税事業者」になれません。

 

6. 自己建設の場合

自己建設の場合は、 原材料及び経費累計額が1,000万円以上(※)となった翌年から、建設等完了日課税期間初日から3年経過日の属する課税期間までの各課税期間、事業者免税点制度及び簡易課税制度の適用ができません。
(=原則課税が強制適用)

(※)1,000万円以上の判定は、「免税事業者の期間中や簡易課税制度選択期間」中の原材料等の支出は含まれません。

 

(1) 例題

● 原則課税の会社
● 2020年に工事開始 ⇒ 2023年に完成
● 2021年末の建設費用累計1,100万(税抜・以下同様)

 

建設費用
(累計)
改正前 改正後
2020 300万 原則課税
2021 1,100万 原則課税
2022 1,500万 免税・簡易選択適用可能 原則課税
2023(完成) 2,000万 免税・簡易選択適用可能 原則課税
2024 免税・簡易選択適用可能 原則課税
2025 免税・簡易選択適用可能 原則課税

 

● 2021年末に、建設費用累計額が1,000万円以上(※)になったため、2022年から、原則課税強制適用

● 2023年に建設完了、建設完了事業年度初日から3年経過日の属する課税期間まで(2025年)の各課税期間まで、原則課税が強制適用

 

(2) 影響

原材料及び経費累計額が1,000万円以上となった日が起点となり、終期が「工事完了」を基準とした3年間となります。

つまり、工事完了時期が遅くなればなるほど、原則課税の期間(免税事業者・簡易課税選択ができない)が長くなってしまう実務上の影響があります。

 

6. 届出

基準期間の課税売上高が1,000万円以下で、「高額特定資産」を取得した場合には
「高額特定資産の取得に係る課税事業者である旨の届出手続」の届け出が必要です。