遺贈と贈与の相違点

自分の財産を渡すという点では同じでも、遺贈と贈与には次のような違いがあります。

  1. 当事者間の合意の有無
  2. 撤回や放棄の可否
  3. 相続税と贈与税
  4. 不動産取得税・登録免許税
  5. 不動産の登記手続き

遺贈と贈与それぞれの特徴を理解して、ご自身やご家族にとって最適な相続対策を選択するようにしましょう。

相違点①:当事者間の合意の有無

贈与は、贈与者と受贈者の間で贈与契約を結ぶ必要があり、当事者間の合意が必要です。

しかし、遺贈は財産を残す者だけの意思で行うことができ、相手側の同意は必要ありません。

遺言書を作成した人が生きている間、財産を受け取る側の人が遺言の内容自体を知らないということも当然あり得ます。

相違点②:撤回や放棄の可否

遺言書は、作成者本人が自らの意思によって作成するものなので、内容を撤回したり別の内容で遺言書を作成し直すことが可能です。

すでに遺言書を作成している場合でも、新たに遺言書を作れば日付が新しいものが優先されます。

わざわざ以前の遺言書を撤回するための手続きは要りません。

 

また、遺贈によって財産を渡される側は、そもそも遺言の内容を事前に知らない場合もあります。

そのため、遺贈を放棄して財産を受け取らないことも選択できます。

 

一方で、贈与は双方が合意して契約を結んでいるものなので、一方的な撤回や放棄はできません。

ただし「契約自体をなかったことにしましょう」といった合意を別途することによって、事後的に契約を解除したり取り消すことは可能です。

 

なお、負担付死因贈与では事後的な撤回がもはやできない場合があるため注意してください。

負担付死因贈与とは「△△をしてくれたら私の死後に〇〇をあなたに贈与します」といった形で、財産を贈与する条件として相手方に一定の負担を求める死因贈与です。

契約内容のうち既に履行が終わっている部分は撤回することができないものとされています。

 

生前に何らかの負担を相手に求める負担付死因贈与では、生前からすでに負担に対応する部分が履行されていることが多く、撤回できないケースが少なくありません。

贈与する側が生きている間に撤回することができないだけでなく、贈与者の死後に受贈者が放棄して贈与財産を受け取らないという選択もできないので注意が必要です。

相違点③:相続税と贈与税

遺贈と贈与では、かかる税金が異なります。

遺贈で取得した財産は相続税の課税対象で、贈与で取得した財産は贈与税の課税対象です。

ただし、贈与の中でも死後に財産を渡す死因贈与は、性質が相続に近いため「贈与税」ではなく「相続税」がかかります。

贈与税の方が相続税よりも税額が大きくなることが多く、同じ財産でもどちらの税金の課税対象になるかで税額が変わるので注意が必要です。

※ 新型コロナウィルス感染症に関する対応や税制上の措置については、こちらをご覧ください。

[令和2年4月1日現在法令等]

 贈与税は、個人から財産をもらったときにかかる税金です。
 会社など法人から財産をもらったときは贈与税はかかりませんが、所得税がかかります。
 また、自分が保険料を負担していない生命保険金を受け取った場合、あるいは債務の免除などにより利益を受けた場合などは、贈与を受けたとみなされて贈与税がかかります。
 ただし、死亡した人が自分を被保険者として保険料を負担していた生命保険金を受け取った場合は、贈与税でなく相続税の対象となります。
 贈与税の課税方法には、「暦年課税」と「相続時精算課税」の2つがあり、一定の要件に該当する場合に「相続時精算課税」を選択することができます。

1 暦年課税

贈与税は、一人の人が1月1日から12月31日までの1年間にもらった財産の合計額から基礎控除額の110万円を差し引いた残りの額に対してかかります。したがって、1年間にもらった財産の合計額が110万円以下なら贈与税はかかりません(この場合、贈与税の申告は不要です。)。

2 相続時精算課税

 「相続時精算課税」を選択した贈与者ごとにその年の1月1日から12月31日までの1年間に贈与を受けた財産の価額の合計額から2,500万円の特別控除額を控除した残額に対して贈与税がかかります。
 なお、この特別控除額は贈与税の期限内申告書を提出する場合のみ控除することができます。
 また、前年以前にこの特別控除の適用を受けた金額がある場合には、2,500万円からその金額を控除した残額がその年の特別控除限度額となります。

3 申告と納税

 贈与税がかかる場合及び相続時精算課税を適用する場合には、財産をもらった人が申告と納税をする必要があります。申告と納税は、財産をもらった年の翌年2月1日から3月15日の間に行ってください。
 なお、相続時精算課税を適用する場合には、納税額がないときであっても財産をもらった年の翌年2月1日から3月15日の間に申告する必要があります。
 税金は金銭で一度に納めるのが原則ですが、贈与税については、特別な納税方法として延納制度があります。
 延納は何年かに分けて納めるものです。
 この延納を希望する方は、申告書の提出期限までに税務署に申請書などを提出して許可を受ける必要があります。

(相法1の4、2の2、3、5~9、21の5、21の9~12、28、33、38、措法70の2の4)

[令和2年4月1日現在法令等]

相続税の一般的な計算は、次の順序で行います。

1 各人の課税価格の計算

まず、相続や遺贈及び相続時精算課税の適用を受ける贈与によって財産を取得した人ごとに、課税価格を次のように計算します。

相続又は遺贈により取得した財産の価格+みなし相続等により取得した財産の価格-非課税財産の価格+相続時精算課税に係る贈与財産の価格(注1)-債務及び葬式費用の額=純資産価格(赤字のときは0) 純資産価格+相続開始前3年以内の贈与財産の価格(注2)=各人の課税価格(千円未満切捨て)

(注)

  1. 1 相続時精算課税の特定贈与者(相続時精算課税に係る贈与者をいいます。)が死亡した場合には、相続時精算課税の適用者(受贈者)が特定贈与者から相続又は遺贈により財産を取得しない場合であっても、相続時精算課税の適用を受けた贈与財産は相続又は遺贈により取得したものとみなされ、贈与の時の価額で相続税の課税価格に算入されることになります。
  2. 2 相続又は遺贈により財産を取得した相続人等が、相続開始前3年以内にその被相続人からの暦年課税に係る贈与によって取得した財産の価額をいいます。

2 相続税の総額の計算

 相続税の総額は、次のように計算します。

  • イ 上記1で計算した各人の課税価格を合計して、課税価格の合計額を計算します。
     各相続人の課税価格の合計 = 課税価格の合計額
  • ロ 課税価格の合計額から基礎控除額を差し引いて、課税される遺産の総額を計算します。
    • 課税価格の合計額 - 基礎控除額(3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数)
      = 課税遺産総額
  • (注)
    1. 1 法定相続人の数は、相続の放棄をした人がいても、その放棄がなかったものとした場合の相続人の数をいいます。
    2. 2 法定相続人のなかに養子がいる場合の法定相続人の数は、次のとおりとなります。
    3. (1) 被相続人に実子がいる場合は、養子のうち1人までを法定相続人に含めます。
    4. (2) 被相続人に実子がいない場合は、養子のうち2人までを法定相続人に含めます。
  • ハ 上記ロで計算した課税遺産総額を、各法定相続人が民法に定める法定相続分に従って取得したものとして、各法定相続人の取得金額を計算します。

    課税遺産総額 × 各法定相続人の法定相続分 = 法定相続分に応ずる各法定相続人の取得金額(千円未満切り捨て)

  • ニ 上記ハで計算した各法定相続人ごとの取得金額に税率を乗じて相続税の総額の基となる税額を算出します。

    法定相続分に応ずる各法定相続人の取得金額 × 税率 = 算出税額

  • ホ 上記ニで計算した各法定相続人ごとの算出税額を合計して相続税の総額を計算します。

    各法定相続人ごとの算出税額の合計=相続税の総額

3 各人ごとの相続税額の計算

上記2で計算した相続税の総額を、財産を取得した人の課税価格に応じて割り振って、財産を取得した人ごとの税額を計算します。

相続税の総額 × 各人の課税価格 ÷ 課税価格の合計額 = 各相続人等の税額

4 各人の納付税額の計算

上記3で計算した各相続人等の税額から各種の税額控除額を差し引いた残りの額が各人の納付税額になります。
 ただし、財産を取得した人が被相続人の配偶者、父母、子供以外の者である場合、税額控除を差し引く前の相続税額にその20%相当額を加算した後、税額控除額を差し引きます。
 なお、子供が被相続人の死亡以前に死亡しているときの孫(その子供の子)については、相続税額にその20%相当額を加算する必要はありませんが、子供が被相続人の死亡以前に死亡していない場合の被相続人の養子である孫については加算する必要があります。
 各種の税額控除等は次の順序で計算します。
各相続人等の税額+相続税額の2割加算-暦年課税分の贈与税額控除-配偶者の税額軽減-未成年者控除-障害者控除-相次相続控除-外国税額控除=各相続人等の控除後の税額(赤字の場合は0) 各相続人等の控除後の税額-相続時精算課税分の贈与税相当額(外国税額控除前の税額)=各相続人等の納付すべき税額(※)

  • (注) 相続時精算課税分の贈与税相当額を控除した結果、赤字の場合又は「0」のときには、医療法人持分税額控除額は「0」となります。
  • ※ 各相続人等の納付すべき税額が赤字の場合
    赤字となった金額(マイナスは付けません) マイナス 相続時精算課税分の贈与税の計算をする際、控除した外国税額 イコール 還付を受けることができる金額

(相法11~20の2、21の9~16、33の2、措法70の7の13、相基通16-1~16-3、19-11、20の2-4)