相続税の按分割合とは?端数処理の仕方で相続税に影響がでる按分割合

「相続税を計算する方法について調べていたら、按分割合を使って相続税を計算すると書かれていたが、按分割合とはいったい何のことだろう?財産を分割する割合とは違う割合なのだろうか?」

相続税の計算は、「足したり、引いたり、掛けたり、割ったり」と、複雑すぎて混乱されているのではないでしょうか。

按分割合というのは、各相続人の納付税額を決めるために必要となる数値です。イメージ的には、「相続税を実際に負担し合うバランス」といった感じでしょうか。

本記事では、相続税を計算する過程において、按分割合をどのように使うのかについて、具体的な計算事例とともに説明していきます。最終的に按分割合がもたらす相続税への影響については3章で説明いたしますので、ぜひ読み進めていただければと思います。

1. 按分割合とは実際に相続税をいくら負担するか調整した割合のこと

按分割合とは、相続税の総額に対し、各相続人がどのくらいの割合で負担するのかを表した数値です。実際に取得した財産の割合とは異なり、相続税を計算する上で必要となる割合です。

1:按分割合のイメージ

按分割合が、計算過程のどのタイミングで使われているのか、相続税の計算方法を簡単にまとめた7つのステップの中で、確認してみましょう。

相続税は、まず初めに、各相続人が法定相続分で財産を取得したものと仮定し、各人の相続税を算出します。各人の算出税額をすべて合算し、相続税の総額とします。この総額を、今度は実際に取得した割合に応じて按分し、各人の納付すべき税額を求めます。

以下の7つのステップのうち、ステップ⑤で按分割合を用います。

【相続税を計算する7つのステップ】
ステップ①:財産ごとに評価して、課税対象となる財産を確定する
ステップ②:課税対象財産の総額から基礎控除額を引く
ステップ③:いったん法定相続分で分割する
ステップ④:税率表から相続税の総額を算出する
ステップ⑤:分割割合に応じて相続税を按分する(按分割合)
ステップ⑥:税額控除を適用する
ステップ⑦:各相続人の納付額を確定する

2:相続税を計算する流れ

※法定相続分について詳しくは、こちらを参考にしてください。(当サイト内)
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※相続税の計算について詳しくは、こちらを参考にしてください。(当サイト内)
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2. 按分割合で割り切れない小数点以下2位未満の端数処理の考え方

按分割合の求め方は、各相続人が実際に取得した財産を相続税の課税対象財産の総額で割って求めます。按分割合がきれいに割り切れることはなく、ほとんどの場合、端数を処理して調整する必要があります。

3:按分割合の求め方

2-1.按分割合の具体例

按分割合がどのような数値なのか、具体例にそってご説明いたします。

【事例】
相続人:母、長男、長女、遺言書で遺贈のあった孫の4
各人が取得した財産の課税価格:母9,800万円、長男3,000万円、長女2,000万円、孫2,000万円 ・・・①
課税価格の総額:9,800万円+3,000万円+2,000万円+2,000万円=16,800万円 ・・・②
按分割合の計算は「①÷②」で求めます。

お母さま→ 9,800万円÷16,800万円=0.5833333333
長男→ 3,000万円÷16,800万円=0.1785714285
長女→ 2,000万円÷16,800万円=0.1190476190
お孫さん→ 2,000万円÷16,800万円=0.1190476190

4:相続人の課税価格に対する按分割合

2-2. 分割合はすべて足すと「1」になるように調整する

按分割合の端数処理について、明確な決まりはありませんが「相続税法の基本通達17条(あん分割合)」において、「小数点以下2位未満の端数がある場合において、その財産の取得者全員が選択した方法により、各取得者の割合の合計値が1になるよう、その端数を調整して、各取得者の相続税額を計算しているときは、これを認めて差し支えないものとする。」となっています。

要するに、按分割合の端数については、相続人がみな納得していれば、調整してもらって構わないということです。最も多い処理の仕方としては、小数点以下第3位を四捨五入して、小数点以下第2位までに調整する方法です。相続人全員の按分割合を合計して「1」になるように調整できれば、問題ありません。

算出した按分割合は、小数点以下第3位を四捨五入して、小数点以下第2位で調整
お母さま→ 0.58
長男→ 0.18
長女→ 0.12
お孫さん→ 0.12
相続人全員の按分割合の合計は「0.580.180.120.12=1」となる

5:四捨五入して端数処理をした場合

2-3. 端数処理は相続人全員の合意のもとで調整する

相続税の申告書上では、按分割合の項目に「10桁」まで記載できるようになっています。相続人の納付税額をできる限り公平にするには、按分割合の限界である10桁で計算するのがよいでしょう。

しかし、納付税額に控除や加算のある相続人がいらっしゃった場合は、この按分割合を調整した方が、結果として相続税の総額が下げられる可能性があります。

相続税の総額を低くするべきか、公平な税額とするべきか、その判断は、「相続人全員が合意する」ことが条件とされています。

端数調整が相続税にどのように影響するのか、次の第3章で詳しくご説明いたします。

3. 按分割合の端数処理で相続税の総額を下げる3つの考え方

2章の事例の計算では、小数点以下第3位を四捨五入して按分割合の端数を調整しましたが、実際のところは、按分割合の合計が「1」となっていれば、四捨五入で規則的な調整をしなくても構いません。端数調整を工夫することで、相続税の総額を減らすことができる方法が3つあります。

【相続税の総額を低くする端数調整方法】
① お母さまの按分割合を切り上げて、税額は高くなるが「配偶者の税額軽減」を適用し、納税額をゼロとする
② 代襲相続人ではないお孫さんは税額に2割加算があるので、按分割合で切り捨て、税額をおさえる
       ※相続税額2割加算対象者とは、亡くなられた方の配偶者、一親等の血族(父母と子など)以外の方で、
          たとえば、兄弟姉妹、孫、その他遺贈により相続財産を取得した方が対象となります。
③ 贈与税額控除、相次相続控除、外国税額控除などを適用しても、控除しきれない税額がある方の按分割合を
  切り上げ、控除額に充てる

なお、各人の納付税額は、「相続税の総額 × 按分割合」で求めます。

6:各人の相続税の求め方

※配偶者の税額軽減について詳しくは、こちらを参考にしてください。(当サイト内)
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※相続税の2割加算について詳しくは、こちらを参考にしてください。(当サイト内)
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3-1. 調整の基本は「控除額の大きい人を切り上げ、加算対象者を切り捨てる」

相続人の納付税額は、最終的に、各人の相続税額から必要に応じて控除や加算をおこなって求めます。(ステップ⑥)控除額の大きい人の按分割合を切り上げれば「控除額が増え、相続税の総額が低くなる」、また、税額の加算対象者の按分割合を切り捨てれば、加算対象となる税額がおさえられるので、結果、相続税の総額を低くすることができますね。

3-2. 規則的に四捨五入した場合と端数処理を工夫した場合の比較

2章(2-1)の事例を使って、相続税の総額に差が生じることを確認してみましょう。なお、比較の方法は、ともに小数点以下第2位までで調整するものとし、相続税の総額は「1,900万円」とします。

【お母さまの端数を切り上げ、お孫さんの端数を切り捨て調整する場合】
お母さま 0.5833333333 → 切り上げ0.59
長男「0.18
長女「0.12
お孫さん 0.1190476190 → 切り捨て0.11
相続人全員の按分割合の合計=0.590.180.120.11=1

図7:端数処理を工夫して計算した相続税額

2章の事例で算出した【規則的に四捨五入した場合】の相続税額は、以下のようになります。端数調整を工夫することで、相続税額が変わることがわかりますね。

8:小数点以下第3位を規則的に四捨五入した按分割合で計算した相続税額

4. 複数のやり方で算出し最適な調整方法を選択することが大切

按分割合の端数調整の仕方によっては、各相続人の納付すべき相続税額、および納付すべき相続税の総額に影響することをご理解いただけたと思います。小数点1桁の細かな話ですが、税額が大きくなればなるほど、数百万円の差が生じる可能性があります。

相続税の按分割合には、明確な規定があるわけではないので、あまり重要視されていませんが、少しでも相続税をおさえたい場合、この按分割合の端数処理は最後の節税につながります。相続税の申告を税理士に依頼された場合でも、按分割合を確認していただき、相続人にとってもっとも有利な調整を選択していただければと思います。