自己の居住の用に供していた家屋およびその敷地である土地を譲渡した場合には、居住用財産の3,000万円控除や居住用財産の買換特例など譲渡所得税・住民税が軽減される特例があります。 居住用財産の譲渡とは個人が自分の住んでいる家屋や敷地を譲渡した場合には、売却した住宅の譲渡代金に税金を課税することにより新しい住宅の購入資金が、その税金分が少なくなることを防止するため、その譲渡による所得税・住民税を軽減する特例がいろいろと設けられています。特例の適用が受けられる居住用財産の譲渡とは、次の譲渡をさします。 (1) 特例が適用される譲渡
(2) 特例が適用されない譲渡(1) の要件を満たす譲渡でも、譲渡の相手が配偶者・直系血族・同一生計の親族・同族会社などである場合には居住用財産の譲渡の特例の適用は受けられません。 居住用財産の3,000万円の特別控除この特例は居住用財産を譲渡した場合にその譲渡益から3,000万円(譲渡益が3,000万円以下の場合はその金額) が控除される制度です。したがって譲渡益が3,000万円以下であれば所得税・住民税は課税されないことになります。譲渡資産の所有期間の長短は問いませんが、前年または前々年にこの特例や居住用財産の買換えの特例の適用を受けている場合には、適用を受けることができません。 (1) 居住期間が短期間である場合この特例は居住期間が短期間でも、その家屋がその人の日常の生活状況などから、生活の本拠として居住しているものであれば適用が受けられます。ただし、次のような場合には適用はありません。
(2) 申告手続きについて居住用財産の3,000万円特別控除の特例の適用を受けるためには、居住用財産を譲渡した年分の申告書別表第三表(分離課税用) の「特例適用条文」欄に「措法35条」と記入するとともに次の書類を確定申告書Bに添付します。
(譲渡資産を譲渡した日から2ケ月を経過した日以後に発行されたものに限ります。) 居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例譲渡した年の1月1日における所有期間が10年を超える居住用財産を譲渡した場合、3,000万円の特別控除に加え、特別控除後の譲渡益に低率による分離課税が行われます。 (1) 特例が適用される場合この特例の適用対象となる居住用財産は、個人が有する土地等又は建物等でその年の1月1日における所有期間が10年を超えるもののうち、次に掲げる家屋又は土地等をいいます。
(2) 低率分離課税その年中の他の長期譲渡所得の金額とは分離して、3,000万円の特別控除後の譲渡益に低率による分離課税が行われます。
居住用財産の買換えの特例所有期間が10年を超える居住用財産を譲渡し、一定期間内に新たな居住用財産を取得した場合には、譲渡所得について課税の繰延べの特例、いわゆる居住用財産の買換えの特例が認められます。この特例を適用すると譲渡代金の全部で買換えた場合には、その譲渡資産の譲渡はなかったものとして課税されません。譲渡代金の一部で買換えた場合つまり譲渡価額より買換資産の取得価額の方が小さい場合にのみ、その差額について長期譲渡所得として課税されます。 なお、この居住用財産の買換えの特例と3,000万円の特別控除の特例及び居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例を同時に適用することはできません。 (1) 特例が適用される場合買換えの特例の対象となる家屋又は土地等は、次の[1]又は[2]の区分に応じそれぞれに掲げる要件に該当する居住用財産です。 [1] 平成10年1月1日から平成18年12月31日までの間に特定の居住用財産を譲渡した場合平成10年1月1日から平成18年12月31日までの間に居住用財産を譲渡した場合で、譲渡資産及び買換資産が次の要件に該当する場合に、この特例を適用できます。
[2] 相続等により取得した居住用財産を譲渡した場合父母等から相続等により取得した居住用財産を譲渡した場合で、譲渡資産及び買換資産が次の要件に該当する場合には、この特例の適用を受けることができます。
(2) 特例の内容と買換期間
(3) 申告手続きについて居住用財産の買換えの特例の適用を受けるためには居住用財産を譲渡した年分の申告書別表第三表(分離課税用) の「特例適用条文」欄に「措法36条の6」([1]を適用するとき) 「措法36条の2」([2]を適用するとき) と記入するとともに住民票、譲渡資産の登記簿謄本等一定の書類を確定申告書Bに添付しなければなりません。 また、買換資産の取得については、確定申告書の提出の日まで、または買換資産の取得をした日から4ケ月以内に買換資産の登記簿謄本等一定の書類の提出が必要です。
計算例居住用財産を買換えた場合の譲渡所得の計算Cさんは、昭和54年に取得し、引き続き住んでいた住宅をその敷地とともに平成16年4月に6,000万円で売却し、新たに4,800万円の新築住宅(床面積90m2、敷地面積100m2) を購入し、居住しています。 なお、譲渡資産の取得費は不明ですが、譲渡に際して仲介手数料その他に80万円を支出しています。 1,124万円×15%=168万6,000円(所得税額) なお、居住用財産の買換特例の適用を受けた場合には低率分離課税の適用はありません。 ■所有期間による居住用財産の譲渡益課税
一口メモ3,000万円の特別控除も、買換えの特例も選択適用なので、一度買換えの特例の適用を選択して申告すると、災害等やむを得ない事情により買換資産を取得できなかった場合を除いて、3,000万円の特別控除に変更することはできません。 居住用財産の譲渡損失の損益通算と繰越控除上記までは、個人が居住用財産を譲渡し、譲渡益が発生している時に課税される譲渡所得税・住民税を軽減する特例について述べてきました。 ところで、不動産を譲渡した場合には利益ではなく損失が出るケースもあります。 (1) 損益通算個人が所有期間5年を超える一定の要件を満たす居住用財産を譲渡したことにより譲渡所得の金額が赤字となった時(譲渡代金が取得費と譲渡費用の合計額に満たないとき) は、その損失の金額を譲渡した年の他の所得(給与所得など) と通算(赤字の所得と黒字の所得を合算すること) することができます。この通算をするとその年の課税の対象になる所得は低下することになります。給与所得者の場合は、給与から源泉されている所得税はこの赤字の所得は考慮されていませんので、所得税を納め過ぎということになり、譲渡の翌年に確定申告すると、納め過ぎた所得税の還付が受けられることになります。 この損益通算は居住用財産(住宅ローン残高なしでもよい) を譲渡したことによる損失が発生している場合で、新たに住宅ローンを使って居住用財産を買い換えた場合や住宅ローン残高が残っている居住用財産を譲渡したことによる損失が発生し、かつ、その住宅ローンの残高が譲渡価額を超えている場合に適用を受けることができます。 (2) 居住用財産の譲渡損失の繰越控除前記(1) の損益通算をしてもまだ赤字の金額が残っている場合で一定の要件を満たしている場合に、その損失の金額を翌年以降3年間繰り越してその年分の他の所得と通算し、その繰り越した年分の所得税・住民税を軽減することができる「居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の繰越控除」制度や「特定の居住用財産の譲渡損失の繰越控除」制度の適用を受けることができます。 この制度の詳細は「6−2.居住用財産の譲渡損失の損益通算と繰越控除制度」をご参照ください。 (注) 平成16年1月1日以後に土地、建物等を譲渡したことにより発生した譲渡損失は、原則、損益通算および繰越控除ができなくなりましたが、上記の居住用財産の譲渡により発生した損失のみ損益通算および繰越控除ができます。 Q&AQ 父から相続した家屋を建て替えましたが、この家屋は、相続等により取得した居住用財産の買換えの特例の対象になりますか。 A 原則としては、建て替えた家屋は相続等により取得した家屋ではありませんので、買換えの特例の対象とはなりません。ただし、相続や遺贈により取得した家屋を取り壊し、その後遅滞なくその家屋の敷地であった土地の上に家屋を建築した場合は、相続または遺贈により取得したものとみなされます。この場合、建替え後の所有期間が10年を超えている場合に限り、買換えの特例の対象となります。 Q 今まで住んでいた家屋を取り壊し、その敷地である土地を譲渡することになりました。この場合、居住用財産を譲渡した場合の課税の特例の適用を受けることができるでしょうか。 A 今まで住んでいた家屋を取り壊して、その敷地である土地等のみを譲渡した場合には、その家屋を取り壊した日から1年以内にその土地等の譲渡に関する契約が締結され、かつ、その土地等の譲渡がその家屋に居住しなくなった日から3年目の12月31日までに行われており、また家屋を取り壊した後に貸付けその他の用に供していない場合に限り、居住用財産を譲渡した場合の課税の特例の適用を受けることができます。 |