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■第11号  『財産分与について』
今回は、「財産分与」をめぐる税務上の取扱いをみていくことにします。

【1】「財産分与」の意義

「財産分与」とは、婚姻中にお互いが築いた財産を精算することをいいます(「財産分与」の協議が、離婚成立前に確定したとしても「財産分与」の効力発生は、離婚成立以後になります)。夫婦は共同生活をしている間、協力して一定の財産を形成しますが、それは多くの場合、夫名義の財産とされます。しかしながら、夫名義の財産とされるものでもその実質が妻の協力貢献によって形成維持されたものについては、離婚の際に、その貢献の度合に応じて精算されるのが普通です。現実の「財産分与」の支払は、「慰謝料」とは別ですが、合算する場合も多く、一般的なサラリーマンにおいて200万円〜500万円位が標準かと思われます。

 

【2】 「財産分与」…対象となる財産

「財産分与」の対象となる財産には、以下のようなものがあげられます。
1現金・預金、2不動産(土地、建物)、3動産(家財道具、車等)、4ゴルフ会員権、5生命保険金、6婚姻後に配偶者の協力を得て取得した医師、弁護士等の専門的な職業上の資格、7営業用の財産、8第三者名義・法人名義としている財産、9退職金、10年金・恩給等、11婚姻費用等があります。
 なお、生命保険金、退職金、年金・恩給については、支給の確定しているものについてその対象となりますが、離婚(精算時)において、支給未確定のものについては必ずしも精算(財産分与)の対象とはしないとの判例があります。 また、その財産の評価時期については、一般的には離婚成立時とされていますが、たとえば長期間別居した後に離婚することとなった場合には、別居当時の評価額が適用されることとなります。

 

【3】 「財産分与」…精算の割合(寄与度)

「財産分与」の対象となる財産が決められますと、次に精算の割合(寄与度)をどうするかが問題になります。夫婦が その財産の形成にどれだけ寄与したかという問題でもある訳ですが、共働きの夫婦、夫婦で家業に従事といった場合には、夫婦お互いに50%・50%とされるのが一般的、専業主婦といった場合でも妻の寄与度を30%〜50%の範囲内が一般的とされているようです。

 

【4】 「財産分与」…税金は課税されるのか?
(1) 支払う側の税金
現金で支払う場合には課税されませんが、現金以外の物で行う場合には、譲渡所得税が課税されます。
(2) 受取り側の税金
「財産分与」の額が、夫婦協力して得た婚姻中の財産の額や社会的地位からして、夫婦共有財産の精算として相当 な額であれば贈与税は課税されないのが原則です。
例外的に課税されるケースとしては以下の場合があげられます。
  1. 一切の事情を考慮しても「財産分与」として行われた財産の額が相当な額を超える場合には、その超える部分について贈与税が課税されます。
  2. 贈与税を免れるために離婚を手段として財産が譲渡された場合(租税回避目的とされた場合)

 

【5】 居住用不動産の「財産分与」
(1) 「財産分与」として譲渡する場合
居住用不動産を譲渡する場合には、譲渡所得税が課税されます。「財産分与」については、本来対価性のない譲渡ともいえますが、慰謝料を支払う代わりに不動産にて精算したという代物弁済的な意味あいを持つことから「時価評価」にて譲渡があったものとされます。離婚して親族でなくなった後に「財産分与」として譲渡する場合には、「居住用不動産の3000万円特別控除」、また、所有期間10年超の居住用不動産の場合には重ねて「軽減税率適用」の特例が受けられることになります。
(2) 「財産分与」のために売却する場合
居住用不動産を第三者に売却譲渡する場合には、「居住用不動産の3000万円特別控除」、所有期間10年超の居住用不動産の場合には重ねて「軽減税率適用」の特例が受けられます。売却代金としての現金を「財産分与」として行った場合、これについての譲渡所得課税は行われません。
(3) 婚姻期間が20年以上の夫婦の場合
婚姻期間20年以上の夫婦の場合、居住用不動産を贈与しても引き続き居住する場合には、贈与税の基礎控除110万円の他に「2000万円の贈与税の配偶者控除」の適用が受けられます。
この制度の適用要件の一つに、「翌年3月15日までに、その(贈与を受けた)配偶者がその土地・建物に居住し、その後も引き続いて居住する予定である場合……」という内容があります。この条文に従えば、離婚をしても居住し続ければ受けられるということになりますが、基本的には夫婦間の贈与の特例として位置付けられた制度ですので、当初から離婚を前提にしてこの特例を受けるという場合には、後で課税される可能性がでてきます。
(4) ローン付居住用不動産を「財産分与」する場合
居住用不動産の時価から分与時のローン残債を差し引いた残りの金額が「財産分与」の対象となります。
具体的な事例にて説明しますと、居住用不動産の時価5000万円(取得費4500万円)夫名義の住宅ローン4000万 が残っていた場合、これを負担付の形で贈与するという場合が該当します。
  「財産分与」を支払う側
5000万円(居住用不動産の時価)−4500万円(居住用不動産の取得費)=500万円(譲渡所得課税)
この場合においても、要件を満たせば「居住用不動産の3000万円控除」等の特例が受けられます。
  「財産分与」を受ける側
5000万円(居住用不動産の時価)−4000万円(負担借入金)=1000万円(非課税or贈与税課税)
この金額が、「財産分与」額として相当な金額ということになれば贈与税は課税されないことになります。

 

【6】 離婚の「財産分与」請求権の時効
「財産分与」請求権の時効は、離婚が成立した日から2年以内に請求しなければ無効になります。
ここにおける「離婚が成立した日」とは、協議離婚では離婚届が受理された日、調停離婚では調停が成立した日、審判離婚では審判が確定した日、裁判離婚では判決が確定した日をさします。