チームマネジメント能力を高めるには推理力を鍛えよL研リーダースクールでは、組織行動学科を新たに設けました。まだ未完成の状態ですが、おいおい強化していこうと思っています。 方針としては、2本柱。 ひとつは、チームマネジメントの基本を訓練すること。チーム作業の改善問題発見と実施というあたりがポイントになります。 もうひとつは、戦略感覚の育成。チーム目標の策定と実施能力です。戦略感覚はなにもトップマネジメントだけに必要なものではなく、若いうちから養って行く方がよいと考えています。 いまは、後者の方にとりかかっていて、半分くらいできています。 チームマネジメントの方はそれが完成したら手をつけ、秋頃までにめどをつけたいと考えています。 推理力を鍛える前置きが長くなりました。 このような訓練をするのに重要になるのが、推理力です。連想力、イマジネーションの能力といってもいいかもしれません。 ある事象から、その背後にどんなことがあり、今後どのような展開が生じるかを考えるのは推理力です。 先見力も推理力と密接な関係がありますね。
その推理力をどう鍛えるかですが、これは各人に工夫していただきたいわけです。 そのさいのポイントを説明します。 推理力がいちばん関係するのが聴覚です。視覚ではありません。 耳が壊れていると妄想が起きやすい。推理と妄想は紙一重かもしれませんが聴覚と推理の関係を示す一つの証拠でしょう。 推理力が悪いということは、物事の関連付けが下手だということだと、私は考えています。 この関連付け能力は、それによってあるイメージがわきおこることと関係が深いと私は思っています。 たとえば、戦争中、遠くでブーンという音を聞いたとします。 これは「ひょっとして敵機が飛来してきたのではないか」という想像が生まれます。 つまり、音と敵機という関連付けがなされ、それによって状況に対するイメージがわくわけです。 視覚の特性聴覚は推理力を生み出すもとのような重要な働きをしてくれるのですが、これには弱点があります。 情報をインプットするのに時間がかかるということです。 これは忙しく情報が飛びかう現代生活においては非常に不便です。 その点、視覚は情報のインプットが早く有利です。 昨今では、ドラッカーの経営本を漫画で解説している本があります。 私は読んでおりませんが、たいへんわかりやすいということでベストセラーになりました。 しかし、私は勉強の入り口としてはいいが、本格的な勉強の仕方としては邪道だと思います。 視覚の場合、非常に大きな欠点があります。それは記憶にとどまる率が非常に低いという点です。 その理由ですが、もともと視覚機能というものは、何が起きているかを確認することに最大の価値を置いているからです。 視覚の機能は、記憶したり推理することではないは、と私は考えています。 さきほどの、敵機襲来の音を聞いたケースでまた考えてみます。 時間がたつと、敵の飛行機が実際に襲来してきたのが見えてきます。 すると、「敵が来た」という事実確認がなされます。 これが、視覚機能の本質的な機能なのだと、私は思います。 この点について、将棋で竜王というタイトルを保持している渡辺明さん(当時22)は興味深いことを述べています。 竜王は「手で記憶する」と言うのです。 「三日に一度は公式戦の棋譜をネットで調べるが、これぞという対局は将棋盤で再現する。『見ただけの記憶はいざという時に出てこない』ためだ」(日経新聞、2007年4月20日「ネットと文明」より) 世阿弥の有名な言葉に先聞後見というのがあります。 これは、まず言葉を耳に聞かせ、しかるのちにそれに応じるしぐさを眼に見せるということです。 「たとえば、泣くという演戯を見せるとき、まず「泣く」という言葉を観客に聞かせておいて、その言葉よりも少し遅れるように袖を顔に当てて見せれば、ぜんたいとしての表現はそのしぐさにおいて完結するわけである。 ところが、観客が「泣く」という言葉をはっきり聞き取りもしないうちに袖に顔を当てれば、言葉があとに取り残されてしまうから、表現全体は言葉で完結する結果になる。そうして、しぐさの効果は先に消えうせて、どことなく落ち着きの悪い感じになるのである。」 『世阿弥』(日本の名著10.中央公論社) 私の考えでは、これは聴覚と視覚の機能の違いからきています。 世阿弥の説明する失敗例は、敵機襲来でいえば、敵の機影を見てから音を聞くようなものでしょう。 まず聴覚を刺激してイマジネーションを喚起し、そのあとに確認作業としての視覚作業に移ること。これが人間には心地よい感覚の移行になるようです。 話がそれましたが、新任リーダーはもっと聴覚を鍛えないといけません。しばらく漫画は封印して、本を読むことです。 |