収用事業の施行に伴い残地上の施設の撤去新設をした場合の取扱い

【照会要旨】

 A石油(株)が有するガソリンスタンドの敷地の一部が道路用地として収用され、これに伴い、残地内において既存の給油施設を取り壊し、位置を動かして同一機能の給油施設を新設する工事が必要となりました。
 これについて、起業者から新設工事費用に充てるための補償金を取得しましたが、対価補償金として収用等の場合の課税の特例の適用が認められますか。

【回答要旨】

 買収されない部分の土地の上に存する施設の取壊し補償金は、対価補償金には当たりませんから、これについて収用等の場合の課税の特例の適用はありません。
 しかし、当該給油施設の取壊し及び新設は公共事業の施工に伴って不可避的に生じたものであり、かつ、新設する給油施設は従来の給油施設と機能的にも同一であって、A石油(株)に積極的な利益が生じたとは認められないことに顧み、収用等に伴う地域外の既存設備の付替え等に要する経費の補償金の取扱い(租税特別措置法関係通達(法人税編)64(2)−12の2)に準じ、本件の補償金の全額を新設する給油施設の取得に充てている場合には、新設する給油施設につき当該補償金の額から従来の給油施設の取壊し損失の額を控除した残額の範囲内で、損金経理により帳簿価額を減額することが認められます。

(注) 従来の給油施設の取壊し損失の額は、従来の給油施設の帳簿価額からその処分(見込)価額を控除して計算します。

【関係法令通達】

 租税特別措置法第64条第1項、第2項
 租税特別措置法関係通達(法人税編)64(2)−12の2

注記
 平成26年7月1日現在の法令・通達等に基づいて作成しています。
 この質疑事例は、照会に係る事実関係を前提とした一般的な回答であり、必ずしも事案の内容の全部を表現したものではありませんから、納税者の方々が行う具体的な取引等に適用する場合においては、この回答内容と異なる課税関係が生ずることがあることにご注意ください。




(平21.5.25、裁決事例集No.77 369頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、ガソリンスタンドを営む審査請求人(以下「請求人」という。)がP県から建物の移転補償金などの名義で取得した補償金に租税特別措置法(平成19年法律第6号による改正前のもの。以下「措置法」という。)第65条の2《収用換地等の場合の所得の特別控除》第1項の規定による50,000,000円の特別控除の特例(以下「本件特例」という。)を適用して行った申告について、原処分庁が、その補償金の対象となった建物等は事業用地として買い取られた土地の上にあった資産ではないから本件特例を適用することはできないとして法人税の更正処分等を行ったのに対し、請求人が、当該建物等は買い取られた土地等と一体として使用していた資産であるから本件特例が適用されるべきであるなどとして同処分等の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

 請求人の審査請求(平成20年7月8日請求)に至る経緯は、別表のとおりである。
 以下、平成18年6月1日から平成19年5月31日までの事業年度を「本件事業年度」といい、平成20年6月30日付でされた本件事業年度の法人税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を「本件更正処分」及び「本件賦課決定処分」という。
 なお、請求人は、本件事業年度の法人税について、青色の確定申告書により申告している。

(3) 関係法令等

 関係法令等は、別紙1のとおりである。

(4) 基礎事実

イ 請求人は、別紙2のとおり、請求人の代表者であるCが所有するQ市q町100番所在の土地354.60平方メートル(以下「甲土地」という。)及び同所200番所在の土地73.95平方メートル(以下「乙土地」という。)並びにCが第三者から賃借する同所300番所在の土地65.14平方メートルをCから賃借し、さらに、国有地80.50平方メートルを併せて、ガソリンスタンドの敷地として使用していた。
 当該敷地には、別紙3のとおり、請求人の所有する建物及び固定給油設備等(以下「本件建物等」という。)並びにCが所有し請求人に賃貸する建物が存していた。
ロ Cは、土地収用法に定める事業で道路拡幅工事である一般国道X号整備工事(以下「本件事業」という。)に伴い、起業者であるP県(以下「本件起業者」という。)によって、別紙3のとおり、甲土地から分筆されたQ市q町100番2所在の土地6.00平方メートル及び乙土地から分筆された同所200番2所在の土地6.13平方メートル(以下、これら分筆された土地2筆を併せて「本件土地」という。)を買い取られ、その対価を取得した。
 また、請求人がガソリンスタンドの敷地として使用していた国有地の一部59.00平方メートル(以下「本件国有地」という。)が、別紙3のとおり、本件事業に係る事業用地(以下「本件事業用地」という。)とされた。
ハ 請求人は、本件事業に基因し、本件建物等の移転について、本件起業者との間で、平成18年8月14日付及び同年11月13日付で「物件移転契約書」と題する書面をそれぞれ取り交わし、当該書面に基づき、本件事業年度において、合計66,307,400円の補償金(以下「本件物件移転等補償金」という。)を取得した。
ニ 請求人は、本件事業年度の法人税の所得金額の計算において、本件物件移転等補償金を益金の額に算入するとともに、本件物件移転等補償金の全額について本件特例の適用があるとして、確定申告書別表十(五)「収用換地等の場合の所得の特別控除に関する明細書」において算出した
特別控除額50,000,000円を損金の額に算入している。また、取り壊した本件建物等に係る固定資産除却損を損金の額に算入している。

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2 争点

 本件物件移転等補償金は、本件特例の対象となる補償金に該当するか否か。

3 主張

原処分庁 請求人
 本件建物等については、本件土地の上になかったことは明らかであるから、本件土地を含む請求人のガソリンスタンドの敷地と一体として使用されていたものであっても、そのことを理由に、本件土地の上にあったものとし措置法第64条第2項第2号に規定する「その土地の上にある資産」として取り扱うことはできない。
 したがって、本件物件移転等補償金は、本件特例の対象となる補償金に該当せず、本件更正処分は、適法である。
 なお、消防法等の規定により本件建物等を移転する必要があったとしても、そのことを理由に本件特例を適用することはできない。
 本件建物等については、本件土地の上になかったとしても、本件土地を含む請求人のガソリンスタンドの敷地と一体として使用していたものであるから、本件土地の上にあったものとし措置法第64条第2項第2号に規定する「その土地の上にある資産」として取り扱われるべきである。
 したがって、本件物件移転等補償金は、本件特例の対象となる補償金に該当するものであり、本件更正処分は、違法又は不当であるから、その全部が取り消されるべきである。
 なお、請求人及びCは、ガソリンスタンドを継続させ、消防法等に規定する「面積制限」に適合させるためには、本件建物等を移転せざるを得なかった。

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4 判断

(1) 認定事実

 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 請求人又はCが有する資産のうち、本件起業者が本件事業の用に供するため買い取った資産は、本件土地のみである。また、本件土地の上には、請求人又はCが有する資産はなかった。
ロ 本件国有地には、土地の上に存する権利等の収用の目的となる資産はなかった。
ハ 本件建物等は、別紙3のとおり、ガソリンスタンドの敷地のうち本件土地及び本件国有地以外の土地の上に存するものであり、当該土地は、本件事業用地の地域外に位置している。

(2) 法令等の解釈

イ 本件特例は、資産が土地収用法等の規定によって強制的に収用された場合又は強制権(収用権)を背景として任意契約により買い取られた場合において、その収用等に伴って取得した補償金又は対価に適用される。
 この場合、収用等をされる資産は、原則として、その資産を収用することができる公共事業の用に直接供されるものに限られる。
ロ そして、本件特例を規定する措置法第65条の2第1項のかっこ書により本件特例が適用されることとなる同法第64条第2項第2号は、別紙1の2のとおり規定しているところ、この規定は、同号の規定に該当する場合にあっては、収用等をされる土地の上にある資産の取壊し又は除去が、土地の収用等と同じ性格のものであり、収用等に準じて課税の特例を認めることが相当であるとの趣旨から、資産の取壊し又は除去であっても、同号に規定する土地の上にある資産について収用等による譲渡があったものとみなし、土地の収用等の場合と同様の課税の特例を認めることとしているものと解される。
ハ このように、本件特例の趣旨を考慮すれば、措置法第64条第2項第2号に規定する「その土地の上にある資産」とは、正に、収用されることとなる土地自体の上にある資産を、あるいは土地の上に存する権利が収用されることとなる場合にはその権利の存する土地自体の上にある資産をいうものと解するのが相当であり、このことは文理上も明らかである。
ニ ところで、土地が収用等をされた場合、その上にある建物等に対して交付される補償金には、その取壊し又は除去により生ずる損失の補償として交付されるものと、その移転に要する費用の補償として交付されるものとがあるが、建物等の取壊しによる損失補償金は、措置法第64条第2項第2号の規定により本件特例の対象となる補償金とみなされるのに対し、建物等の移転補償金については、このような特別の規定がない上、同条第3項が、本件特例の対象となる補償金の額は、名義がいずれであるかを問わず、資産の収用等の対価たる金額をいうものとし、収用等に際して交付を受ける移転料その他当該資産の収用等の対価たる金額以外の金額を含まないものとする旨規定していることから、現実に建物等を取り壊した場合であっても本件特例の適用がないことになり、実情に即さないところがある。
ホ そこで、公共事業施行者の補償の仕方いかんにより課税上の差異が生じることのないよう措置法第64条第2項第2号の規定との課税の公平を図る趣旨から措置法通達64(2)−8が定められているものと考えられる。すなわち、同通達は、土地等の収用等に伴い、その土地の上に存する建物又は構築物について移転補償金が支払われた場合でも、法人が実際に当該建物又は構築物を取り壊した場合には、当該補償金を本件特例の対象として取り扱うこととしたものであり、この取扱いは、当審判所においても相当と認められる。
ヘ さらに、措置法通達64(2)−9は、土地等又は建物等の収用等に伴い、機械又は装置の移設を要することとなった場合において、そのもの自体を移設することが著しく困難であると認められる資産について、交付を受ける取壊し等の補償金は、機械装置の移設補償名義のものであっても本件特例の対象として取り扱うこととしている。
 この措置法通達64(2)−9も、措置法通達64(2)−8と同様に、機械又は装置の移転料として支払われる補償金について、措置法第64条第2項第2号の規定との課税の公平を図る趣旨から定められているものと考えられ、当審判所においても、この取扱いは相当と認められる。
ト したがって、これらの措置法通達の取扱いが定められた趣旨からすると、措置法通達64(2)−8に定める「当該土地等の上にある建物又は構築物」も、同通達64(2)−9の対象となる「機械又は装置」も、ともに措置法第64条第2項第2号に規定する「その土地の上にある資産」と同様、収用されることとなる土地自体の上にある物件を、あるいは土地の上に存する権利が収用されることとなる場合にはその権利の存する土地自体の上にある物件をいうものと解するのが相当である。

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(3) 本件への適用

イ 本件についてみると、上記1の(4)のイないしハの各事実によれば、本件物件移転等補償金は、本件事業の施行により本件土地及び本件国有地が道路用地とされたことに伴い、請求人のガソリンスタンドの用に供されていた本件建物等についての移転に要する費用等を補償されたものではあるが、上記(1)のイないしハの各事実によれば、本件事業により収用されることとなる土地又は土地の上に存する権利は、本件土地のみであり、本件土地の上には、本件建物等を含めガソリンスタンドの用に供されていた既存の施設等はなかったものと認められる。
 すなわち、本件物件移転等補償金は、土地の収用等に伴って支払われた補償金ではあるものの、本件事業用地の地域外に存する資産の移転に要する費用等を補償したものであると認められる。
 そうすると、本件物件移転等補償金は、収用されることとなる本件土地の上の資産について補償したものではないから、本件特例の対象となる補償金に該当しないことは明らかである。
ロ この点、請求人は、本件建物等は、本件土地の上になかったとしても、本件土地を含む請求人のガソリンスタンドの敷地と一体として使用していたものであるから、措置法第64条第2項第2号に規定する「その土地の上にある資産」として取り扱われるべきである旨主張する。
 しかしながら、本件特例の適用については、措置法第64条第2項第2号の規定においても、また、措置法通達の取扱いにおいても、上記(2)のとおりであり、本件においては、収用されることとなる本件土地自体の上にある資産について補償された場合に限り適用されることとなるのであるから、本件建物等が本件土地を含む請求人のガソリンスタンドの敷地と一体として使用されていたことのみをもって、本件特例を認める余地はないというべきである。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ハ なお、請求人は、ガソリンスタンドを継続させ、消防法等に規定する「面積制限」に適合させるためには、本件建物等を移転せざるを得なかった旨主張し、本件特例の適用を求めるが、仮に本件事業によって本件建物等の移転等が不可避であったという事情があったとしても、本件特例の適用が認められないことは上記に述べたとおりであって、租税と異なる法目的を持つ「消防法」等を根拠とする上記主張は、本件特例適用の論拠とはなり得ないものである。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

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(4) 本件更正処分について

 上記(3)のとおり、請求人の主張にはいずれも理由がなく、他に本件物件移転等補償金が本件特例の対象となることを定めた法令の規定もないことから、本件事業年度において、本件特例に係る特別控除額50,000,000円を損金の額に算入することはできない。
 その結果、本件事業年度の所得金額及び納付すべき税額を計算すると、いずれも別表の「更正処分等」欄記載の金額と同額となるから、本件更正処分は適法である。

(5) 本件賦課決定処分について

 本件更正処分は上記(4)のとおり適法であり、また、同更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいてされた本件賦課決定処分は適法である。

(6) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。





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